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君がその手で開いたんだよ 豊かな言葉の世界の扉を

 2009-11-12
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今年1月にあるお母さんが私の所へ相談に来られました。

「これまで、療育の先生や学校の先生のご努力でこの子なりの成長の手応えを感じていますが、一つだけ気になっていることがあります。それは、言葉によるコミュニケーションのことです。 学校や療育の場面では、構造化されたシステムや絵カードなどによる代替コミュニケーションを工夫してくださり、とても安定した生活をおくることができています。とても感謝しています。 私、ずっとこの子がひらがなが読めるように、家庭で一緒に勉強してきたんです。ただ、一文字一文字は読めても、まとまりとして 「りんご」 とは、なかなか認知できにくいようです。 学校の先生に何度かお願いをしてみたしたが、この子の課題だけを焦点化して取り組むには限界があるようです。どうか先生のお力をお貸しいただけないでしょうか。 言葉以外の代替コミュニケーションや、構造化されたシステムの中で生活が安定することも大切なことだと思います。でも私は、ナチュラルな言語の世界のすばらしさや豊かさを、わずかであってもよいから、この子に感じ取らせたいのです。春には小学校4年生になります。言語の発達には、年齢的な限界もあると思います。たとえ結果がどうであれ、親として出来る限りのことをしてやりたいのです。先生、どうかよろしくお願いします。」


数日後に、これまでお母さんがこの子と一緒に勉強してきた教材を、資料として送付していただきました。

それから、今日まで、私なりにいろいろなチャレンジをしてきました。

素直で優しい性格のお子さんでしたので、当初は、パズルや手作業的な課題を一生懸命取り組んでくれました。きっと、これまでの学校や療育と同じようなスタンスで取り組んでくれたのでしょう。

しかし、文字をえどる課題に取り組み始めた頃から、この子の態度に変化がみられました。

この子は、鉛筆をもつと、なぜか紙面を一杯にぬりつぶしてしまうのです。


指導の途中に突然、泣き出したこともあります。コミュニケートの方法が限られていますから、その原因を見つけるのが大変でしたが、そういう一つ一つの出来事から、私は、この子の意思を理解する感度が徐々に高まっていきました。

養護学校の先生が参観してくださった日も、途中から泣き出して、冷や汗がでました。もう、今日は指導ができないとあきらめかけた日だってありました。今思えば、このもがきの時間こそが、勝負の時間だったように思います。



前回の指導の時です。

以前は、教室に入ってくるとすぐに着席。綿密に構成されたプログラムを、着々とこなす展開でしたが、この頃はにこにこしながら、教室の新しい教材を物色したりします。

「こらこら、いつまでうろうろしているのよ。こっちへ来て勉強しなさい」 と、背中を押すと、すーっと着席しています。このすーっという手応えで、私は彼の気持ちを感じることができます。


彼の体調やお母さんの都合で、この日が久々のレッスンとなりました。

まず、くだものペアペアパズルで、「りんご」などの文字の切片を渡し、5つあるくだものの中からりんごを選ばせます。以前に、私が 「これはりんごだよね」 という聴覚性の支援を添えていましたので、今日はその聴覚性の支援をフェードアウトしようと考えていました。

集中力はこの時点では、散漫でしたので、正答率は60~70%位だったでしょうか? でも、いけます。読めています。ただ、このパズルには、リンゴという文字の切片に赤い色がついていますから、これもフェードアウトして調べる必要があります。

と、その時です。彼が、「あか」「みどり」「すいか」などと、つぶやきました。

私はすぐに、この言葉が、今やっている切片パズルのことではなくて、大好きなくだものの色塗りを要求しているのだと感じました。

「わかってます。このパズルがすんだら色塗りしようね~」 と言って、色塗りの用紙をプリントアウトすると、彼の表情が変わり、集中力が格段にアップしました。

ん? 今のって、立派な言語コミュニケーションだよね? クレーンでも、カードでもないじゃない? ほえっ~

私と彼との間に、まだまだ細いけれども、大切な大切なパイプがつながった瞬間です。


さて、いよいよ、聴覚性の支援も、色の支援もフェードアウトしたガチンコの教材での試行に望みます。 この時点で、レッスン修了時刻が迫っていましたので、お母さんに携帯で連絡し、少し時間は伸びるから、終わるまで迎えに来ないようにお願いしました。


上記のような教材で、ひらがなを絵にはめていく活動です。

最初はとまどって少しミスがありましたが、正答率は70~80%はあったと思います。 

どのように読めているかはわかりません。 でも 「すいか」 の文字を見て、すいかと認知できる力があることは、確かです。

わずかではありますが、表出言語はあります。「すいか」 が、すいかとわかるのであれば、やがてある程度の文は理解できるようになるはずです。 それによって、理解言語がどんどん増えていくならば、やがては簡単な文を音読することも可能になるのではないでしょうか?


やっぱり、やっぱりあのもがきの時間が勝負だった。 心を閉ざしたまま、何百回パズルや手作業を繰り返すより、ナチュラルにダイレクトに向き合う手法が、やっぱり正解だったような気がします。


これからも、いろいろな事があるでしょう。 すべての人に、同じ手法が成功するとも思っていません。 

でも、彼との細いパイプの中から流れ込んでくる、何とも言えないあたたかい気持ち。 この感覚こそが、コミュニケートの中身であるはず。

うまく行くときと、そうでないとき。 大切なのは、苦しい時です。 そこでどう向き合うかが、次の局面を切り開いていくのです。

彼は、彼自身の手で、その大切な扉を開きたかったに違いありません。


ここまで来るのに1年近くかかってしまいました。

時間が来て、お母さんをお呼びしました。

このことをお伝えすると、目頭を真っ赤にされていました。

「この子は、心を開いた人でなければ、泣いたり、わがままを言ったりしない子です」 と、私に伝えてくれました。

手段として学ぶ言語とともに、通い合うものと向かう先、その軸を決して忘れてはいけないと、改めて感じるのでありました。



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