言語理解の基礎を培う (かれんちゃんの語彙獲得のプロセス)
2009-06-25

先日のかれんちゃんの指導で驚いたことがあります。
かれんちゃんのわがまま行動? がひどい場合は、私は原則かれんちゃんにからむのを中断しています。
望ましくない行動からは、得られるものは少ないということを、行動を通して伝えるのがその目的です。
知らん顔して、事務用のいすで待機していると、かれんちゃんがのこのこやって来て、「せんせい」 と私に言いに来ました。
私は、「せんせい」 と言う言葉を教えて真似をさせ、それができたらたっぷりほめて強化する活動を何度もしてきましたが、ここに来てとうとうそれが般化しました。
かれんちゃんが「せんせい」 と発語すると、私がめいっぱい喜んで、何度も何度も抱っこしたのは、半年のことでした。
きっと様々な体験から、どの先生に対しても、すでに出来るようになっていたのだと思いますが、実際にこうした生きた場面で正しく使えたので、半年前のことを思うと、私は感動でウルウルになってしました。




かれんちゃんが、乗り物が好きなことが、最近になってわかってきました。
動物絵本より、乗り物絵本の方が食いつきが良いのです。
「ふね」 とか 「ばす」 とか、次々に言葉 (名詞) の獲得数を増やしていきました。
かれんちゃんは、自分が気に入らないものがあると、すぐそれを投げてしまうことがあります。
私が指導をしている子の中にも、同じような傾向をもった子が何人かいます。
私はそれを、未成熟なコミュニケートとしてとらえていますので、「そういうことをしなくても、ちゃんと要求したらいいんだよ」 ということを、毎回毎回、行動や環境や場の設定を通して伝えていきます。
「バスで おでかけ」 は、かれんちゃんの大好きな絵本の一つです。
以前は、カエルの本が好きでしたが、今では完全にこの本にはまっています。
実は私、別の子の指導で、自作の 「ひらがな指導カード」 が、いい線に行きだしたので、今日はかれんちゃんでも、ちょっと試してやろうとたくらんでいました。
しかし、それは思い通りにはいきませんでした。
投げ飛ばしはしませんでしたが、きっちりスルーされてしまいました。
やはり、そう甘くはありませんでした。
私の与えたものはスルーされましtが、かれんちゃん、この自分の顔の10個分はあろうかという大型絵本を、自分でかかえて指導用の机にもってきました。
この子、与えられた物は投げることがありますが、自分で選んでもってきたものへの集中力にはすばらしいものがあります。
4歳の子で、指導時間を毎週90分もいただいているのは、かれんちゃんだけなので、こうした活動にはたっぷり時間をかけることができます。
「○○は、どれ?」 のポインティングは、名詞獲得の基礎中の基礎です。
私、かれんちゃんとこの活動を広げていきたくて、どれだけの教材を準備してきたことでしょう?
それがなんと、この日は、既製品の、しかも普段から何度も何度も使ってきた絵本で、みるみる広がっていくではありませんか?
よく見ると、おさるも、パンダも、ぞうさんも、しっかりとこの本には描かれているではありませんか?
「わー、雪が降っているね。 バスはどこかな?」
「このでっかいのりものはなあに?」
「かれんちゃん、パンダさんがどこかにいるよ。どこかな〜」
30分以上の時間、一度も集中力を切らすことなく、次から次へとイメージがふくらみ、言語理解の素地が形成されていきます。
こういうことろは、他の子にはないかれんちゃんの最大の魅力であり、大きな可能性につながる大切な糸口なのだと考えいます。
テクニカルなステップを意識するなら、「赤い車」 「黄色い車」「大きい車」「トラック」「ひこうき」「のりもの」・・・・ と、属性や上位概念形成へとステップアップしていくのがセオリーだと思います。
しかし、ここでかれんちゃんの意識からとぎれた「赤い車」や「黄色い車」の絵カードを安易に提示すると、きっとまたスルーされたり、投げられたりするのではないかと思います。
この 「バスでおでかけ」 も、どこまでが旬なのかはわかりませんが、少なくとも、今は旬の教材。次週には、私の指導イメージを、一層しっかりとふくらませておこうと思います。
子どもの実態 → 指導のねらい → 教材選択・教材作成
これが教育の大原則です。
でも、それは現実にはなかなかできないことです。
カリキュラムがあって、それに子どもを当てはめるのではないはずです。
「教科書を教える」 のではなく、 「教科書で教える」 はずです。
それだけ、教材を子どもにとって血の通うものにするには、高度な教育的な力量が必要なわけです。
今は、かれんちゃんにとっては、この 「バスでおでかけ」 が、語彙獲得のための教科書のようなものになってきています。
先日お伝えした、聴覚メモリーや視覚メモリーの育成にも、「バスでおでかけ」 を使うことが出来ます。
語彙数の増加や反対語、比較や位置関係など、いくらでも発展的に使用できます。
いつも感じていることですが、俗に言う 「がんこ」 あるいは 「こだわり」 は、はまれば逆にすごい集中力へとつながります。
それが指導のむずかしさでもあり、腕の見せ所でもあります。
子どもの今がきちんと見えること、目指す方向や形がしっかりとイメージできていること、子どもの目を見てそれが構成できること、子どもの学びの願いを受け止めること、子どもの可能性と未来を信じて疑わないこと・・
そういう人こそ 「せんせい」 と呼ばれるに値する人物なのだと思います。
どの子に対しても、そういう存在であることができたなら、私は本当に幸せだと思っています。
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※ この実践記録は、適切な教育によるダウン症児の成長の可能性を、より多くの方に理解していただきたいというご家族の願いと要請を受け、かれんちゃんの表情なども含め、リアルな指導の様子を公開させていただいております。また、平成21年度、福武教育文化振興財団による研究助成をいただいています。
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