子どもの心の世界が見えてこそ

 2009-06-05
私が、初めて支援級の担任をしたときのエピソードです。


小学校1・2年と、その子は、ほとんどの時間を交流級で過ごし、個別指導をするときには、となりの私の教室(支援級)にやって来ていました。 (本当に恵まれていました)

その日の給食メニューに、パンとジャムがありました。

おいしく給食をいただき始めたその時、その子は、「ジャム取って~、ジャム取って~」 と急に泣き叫び始めました。

私は何が起こったのか、全く理解できませんでした。 なので、何をどうしたらよいのかが分かりませんでした。 (たぶん、ジャムのついていないパンと交換し、クールダウンさせてのだと思いますが、そこはよく覚えていません)

結局、この子はべちゃべちゃの食べ物(=ジャムのような物)が嫌い、でも給食だから、がんばって食べたい、でもやっぱり食べれられない、でも何とか食べなきゃ、やっぱり無理、もうどうしてよいかわからない・・

という形になってしまったのだと、後になって理解することができました。


泣き叫ぶくらいなら、ジャム付けなきゃいいのに・・ (無理解な私であれば、その時、きっとそう思ったに違いありません)

そこに給食をがんばって食べたいという強い願いがあるからこそ、嫌いなジャムをパンに付けた。

この子への理解が深まるにつれて、私は、その気持ちが、愛おしくて愛おしくてたまらなくなりました。

と同時に、そんなことも分からないようでは、担任としては失格だと、深く反省しました。

「そうか、がんばってジャムを食べようとして、チャレンジしたのか? えらいぞ!」

彼の目を見て、やさしくそう言ってやれば、彼にとって大切な1日となったであろうに・・


その彼が、今高校生になり、私の教室で週1度、英検と漢検の学習をしています。

その彼の昨日のエピソード


漢検の問題をしたあと、不正解だった漢字を、赤ペンで修正する学習をしています。

私のちょっとしたミスで、訂正すべき漢字を1行まちがえてしまました。

こういう時は、修正ペンでその赤字を消すお約束です。

なかなか乾かないので、「ちょっと休憩する」 といって、彼は教室にあるじゃんぼシャボン玉をいじっていました。

ところが、不意にそのふたが開き、シャボン液が、かれのズボンにかかってしまいました。

彼は、心の中できっと、「とんでもないことをしでかした」 と思ったに違いありません。

突然、ズボンを脱いで、流しでそれを洗い始めましたが、予想以上にズボンがびちゃびちゃになってしましました。

今度は、「乾かしして~」 と叫び始めました。


その時に、私は9年前のあのジャムのエピソードをすぐに思い出しました。

> ここには、ドライヤーも乾燥機もない、でも、保育園の中には乾燥機があるはずだから、保育士の先生に聞いてあげるよ。ズボン、脱ぐ?

私は、落ち着いて、笑顔で彼にそう伝えました。


保育士に尋ねると、うちの保育園には、乾燥機というものはないけれど、浴室が乾燥室として機能するということでした。

浴室に行き、ズボンを吊し、スイッチを入れると、何か確かにモーター音が聞こえてきます。

本当に乾くのかなあ、と思いながらも、私は再び自分の教室に帰りました。


パンツ1丁での個別学習が始まりました (笑)

何だ、こういうのは平気なんだと、笑いをかみ殺していました。

私の教室は、警備の職員の着替え室も併設しているので、定刻に警備の職員が教室に戻ってきました。

彼は、「恥ずかしいから、隠して」 と、私に訴えました (笑)

恥ずかしいって・・・

私に対しては、恥ずかしくないのか、と思うと、またまた愛おしい気持ちがこみあげてきました。

と同時に、私と彼との間に、何かあたたかい物が流れ込んでくるのを感じました。


予定の学習を終え、お楽しみのDVDタイムになった所で、そのズボンを取りに行くことになりました。

乾燥室に行くと、まあ何と、ズボンはきっちりと乾いているではありませんか?

さすがは、我が保育園の乾燥室です。

さっそく、彼にズボンを届けると、彼もびっくりして、何とも言えないステキな笑顔を見せました。

9年かかって、ジャムの失敗を取り返した。

当たっていないかも知れませんが、私はそう感じました。


指導後、今回もご両親がお見えになりました。

今日のズボンのエピソードをお伝えしました。

彼は、中学の後半、「勉強をしたい、でもそれが思うようにできないこと」 そういう思いで、学校への適応に大きな課題を背負いました。

しかし、今では毎日元気に学校に通うようになり、社会への接点が日に日に拡大しているそうです。

会話がナチュラルになり、笑顔や鼻歌が見られるようになり、挨拶や日常生活のギスギス感が、見違えるようになくなってきた、と伝えてくださいます。


確かに、ご両親が思いあまって相談に来られた、今年の2月の頃の彼の目は、今とは全く別人のものに感じました。

> ここまで来たら、ダメで元々。 私にだまされたと思って、ここに連れて来ていただけませんか?

これがその時、私がお父さんにお伝えした言葉です。

私が自分の方から、教室にこんな形でお誘いしたのは、後にも先にも、この時だけだと思います。


昨日お父さんは、「佐々木正美先生は、自分がその世界に入り、その子の目に映る世界を共有することが大切と言われていました。 先生こそ、うちの息子の世界を共有してくださる先生です」 と言ってくださいました。


何だか、弟は変わった、自然になった、普通になった・・

最近の、彼のお姉ちゃんの言葉だそうです。


彼は今、特別支援学校高等部に通い、次週には現場学習というのが始まるようです。

私は、大学院にいた時、この支援学校のアシスタントティーチャーとして、1年間通わせていただきました。

私は中学部の担当でしたが、文化祭の時、高等部の生徒が、本当に生き生きと輝いた目で演技をしているのを見て、これぞ真の教育と、胸のすく思いでその演技を見つめていました。

現場学習、きっと彼は大切なことを学び、その足で私の教室に来てくれることでしょう。

「勉強、むずかしくなったら、ここ止める」 と、彼はもう言わなくなりました。

私の都合で指導ができなかった週に、彼は自分から、曜日の振り替えを希望したそうです。


「学校を休んでも、私の教室に来る彼」 は、今や 「学校も休まずに行く彼」 に成長を遂げました。


私は妄想癖がありますので、これから彼が、次々と新しいステージへと発展していくような期待をもっています。 教育者ですから、夢をもち、いろいろとたくらみをもっています。

「ごく当たり前に、日々を過ごし、居場所があり、そこでわずかでもよいから成長の手応えと充実感をもってくれればそれでいい。そういう何気ない日常生活の大切さ、そして安らぎの大切さを、身にしみて感じています」

ご両親は、幾度も幾度も、そう伝えてくださいます。

どこか、何か、大切なことが見え隠れしているように思います。


大変な場面を共に乗り切った子どもほど、つながりが深くなるのは事実です。

うまく行かない時こそ、何かの強い願いが奥に潜んでいることも、多いように思います。

99の失敗と1の手応え

楽しく、充実した手応えを感じるまでになるのは、そうたやすいことではありません。

苦しいことも、思い通りにできないことも、いっぱいいっぱいあります。


でも、こういうこともあるから、希望をもってふんばることができます。

私は、今日も、子どもたちと一緒に、精一杯前を見つめて歩んでいこうと思っています。


この子が在籍していた小学校では、卒業式に1年生も出席します。

彼は、当時、予行演習で、泣き叫んでいました。

それから色々な事がありました。 卒業式を別室で、という思いも一瞬ではありますが、頭をよぎりました。

しかし、彼は卒業式に立派に参加しようと願っているのです。

泣くのは、その気持ちの裏返しです。

最後の最後に、体育館の横で私は、彼の目を見て、

「ごめん、もう大丈夫、何があってもいつものままでいいから」

私がそういう意味のことを伝えると、彼の表情がみるみるうちに落ち着いていきました。


信じればこそ、子どもは変わる。

「万が一誰かに迷惑をかけたなら、私自身がその人一人一人に謝りに行こう、だってオレ担任だもん」

そう思うと、私の気持ちはすっきりとして、何の迷いもなくなりました。

不安がないと言えばウソになります。 しかし、子どもの心の中の願いが信じられないなら、担任としての資格はないのだと気がついたのです。

そして、この子の担任でいられることを心の底から感謝し、誇りに思いました。

やっと、本当の意味で、私がこの子の担任になれたのは、この時からでした。

これまで、どれだけの感動をこの子と共有してきたことか。

不適応を、子どものせいにすり替えてはいけないと、心の底から感じた瞬間なのでありました。


その卒業式は、生涯心に残る物になりました。 きっと彼も同じだと思います。

この卒業式があればこそ、彼は今、私の横で漢検の学習を続けているのです。


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