一人一人に寄り添うという中身

 2009-05-08
昨日は、まさと君 (高1) の指導の日でした。

毎週木曜日、特別支援学校高等部の勉強が終わったあと、6時から7時半まで一緒に勉強しています。

内容は、漢字検定と英語検定に向けた個別学習です。

学習を終えた最後の20分は、英語のヒアリングも兼ねて、シンプソンズという英語のDVDを日本語字幕で観る約束になっています。

まさと君は、この時間をとても楽しみしていて、途中私がトイレに行ったりすると、そこでしっかりDVDを止めて待っていてくれます。


漢字検定は7級、英語検定は4級を目指して学習しています。

学習のスタイルは定着し、すばらしい集中力で学習に取り組んでいます。

よそ見もしないで、ひたすらがんばり続けるといった感じで学習しています。

昨日は漢検の学習がいつもよりハードだったので、まさと君、「ちょっと疲れた、休憩しようか?」 と言うので、「うん、いいよ。5分ほど休憩しよう。その間、何をするの」 と尋ねたら、「ポケモンの本を見る」 と言って、彼はしばらくそれを見ていました。 その後、5分たったら、何も言わない間に、自分で再び学習を再開していました。

そういう子です。


さて、この日のメニューも完璧にこなし、いよいよお楽しみにしているDVDの時間がやってきました。

彼は、急な予定の変更を受け入れるのが苦手なタイプなので、いつもDVDは事前にちゃんと準備をしておきます。

この日も、しっかりと確認して手元に置いておきました。

と、思っていたのですが、そのDVDがどこを探しても出てこない・・・


私、正直、血の気が引き、わずかな時間ではありますが、あせダクダクになりました。

私は彼の小学校1・2年の担任でしたので、こういう不手際がどれだけ彼の心に負担をかけるかを体験的に感じていました。

これまで順調にステップを刻んできただけに、こういうことでつまずくのは、何としても避けたい、そう言う気持ちでした。

しかし、どこをどう探しても、そのDVDは見つからない・・

10分近く探したでしょうか?

私にはそれが、とてつもなく長い時間に思えました。

するとまさと君、「見つからないなら、もういいよ」 と、涼しい口調で私に言うではありませんか?

後でこのことをご両親にお伝えすると、大変そのことを驚かれていました。 もし家で同じような事があったなら、それはもう大変なことになると言われていました。


不思議なものです。

この一言で、今度は私の方が落ち着きを取り戻しました。

ふと整理棚の上を見ると、ちょこんとそのDVDが置いてあるではありませんか?

もう歳ですね、指導用の机に置いたつもりが、棚の上に置いたまま、すっかり忘れてしまっている・・

しかし、ここからは約束のDVDが見つかったので、それはそれは楽しい時間を彼と共に過ごすことができたのでした。


私はここ5年以上NOVAで、1000時間を超えるネイティブの先生との会話を楽しんできましたが、最近はとてもそんな時間がもてなくなりました。

なので、まさと君といっしょにネイティブの英語に親しむこの時間を、私自身も、実はとても楽しみにしているのです。


毎回、指導の後、ご両親がお見えになります。

もう長い長いお付き合いです。

今高校生のまさと君の小1の時の担任が私なのですから、もう10年近くのお付き合いになります。


> 最近、会話がとてもナチュラルになってきて、家族中で驚いています。

> それよりも何よりも、週に1度、ここで勉強することをとても楽しみにしており、そのことで生活にリズムがつき、毎日元気で学校に行ってくれるようになってくれたことが、親としては最高の喜びです。

毎回、毎回、そのような内容のことを私に伝えてくださいます。


これ、私個人の力でも何でもありません。

私と、ご両親と、まさと君の間には、絶大な信頼感が存在しています。

私は、このご両親を、心の芯から信頼し敬愛しています。 入学前から、どれほど心を砕き、心血を注いで、この子の教育に向き合ってこられたかを、知っているつもりです。


私が、まさと君の担任をしていた当時は、今から思うと信じられないくらい恵まれた条件でした。

校長先生の絶大な理解、通常級の担任は、前年度私と同じ学年をもった優秀な先生、私は支援級の担任でありながら教務主任でしたから、やりたいと思ったことをほぼ自由にやらせていただける環境にありました。

必要と思われるマンツーマン指導も、集団の中での体験的学習も、思うがまま自由自在に構成できました。

当時はそんなことを思ってもみませんでしたが、イングルージョンのひな形がそこにあったようにも思えます。

こんな考えられないような恵まれた条件でしたから、自然、彼の周りは笑顔や歓声で包まれていました。


こうして、私とまさと君、そしてご両親との間には、少しくらいのことでは揺らぐことのない、絶大な信頼感が形成されていったのです。

構造化の中には、物理的な構造化、時間的な構造化など、様々な視点が必要であるとされています。


どんなことがあっても揺るがない信頼感

それは、それを総合化した究極の構造化ではないかと、私は思っています。


もちろん、今の教育現場で、このような環境を願っても、なかなか実現できないであろうことは承知しています。

今、私が行っている週1〜2時間程度の個別指導で、何がどこまでできるのかという、限界もわきまえているつもりです。

私がスーパースターでも、天才でもなく、身の程知らずの愚直な人間であることも、常に自分に戒めています。

でも、ほんのわずかではあっても、日々の歩みは小さなものであっても、私たちが協力し合って目指すべきは、そういう形ではないかと思い始めています。

だからこそ、目指す方向がここにあると、私は感じ始めています。


親には親しかできない役割があります。

家では勉強しない子が、この教室ではがんばるというのは、日常的な事です。

それは、私の指導がうまいからではなく、ここは勉強する場と子どもがとらえ、その環境をご家族が構成されたからです。

私は、ご家族の依頼を受けて、そのつとめを果たしているにすぎません。


相互が信頼し、役割を明確化することにより、そこに大きな方向感が生まれるのだと思います。

その相互の信頼を感じ、その信頼の中で、子どもは自分の足で歩み始めるのです。


認知特性に応じたテクニカルな指導は、欠くことのできない重要な要素です。

しかし、決してそれだけではない。

一人の人間だけで、子どもの育ちや学びを支えきれるものではない。


一人一人の子どもに寄り添うという中身を、実践の中から、私はもう一度精査してみたいと考えています。



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