拡大教科書から見える いくつかの真実
2009-05-05
以前、私が教えた子のご両親、目が少し不自由なので、クラス便りや学年便りなどの配布物を、B4やA3に拡大して差し上げていたことがあります。これは、前担任の先生から引き継いだことがらで、私はそのことをとてもうれしく誇りに思い、拡大コピーを差し上げることを、一度たりとも面倒くさいなんて思うことはありませんでした。
当時もこの学校は、人権感覚の大変すぐれた先生がたくさん勤務しており、私なんか逆立ちしても勝てない先生が、その辺にゴロゴロと転がっていました。
日曜日学校へ行ったら、何人もの先生がお忍びで印刷機を回していることは、日常的でした。
地域の子供会の行事に、当たり前のように先生が顔を見せていました。
そのことの是非はともかくとして、相手の立場に立って物を考える、子どもやご家族の願いに寄り添って物を考えるという姿勢が、学校全体に行き渡っている学校であったことは確かです。
私はその時、通常学級の担任をしていましたが、何かクラスでのイベントがあったら支援級の子を子ども達の方から自然に迎えに行っていました。
私がちょっとでも、そういう配慮を怠ると、クラスの子どもの達のだれかが、いつもカンカンに怒って訴えにきました。
私は、そういうクラスの子どもが大好きでしたし、子ども達もそういうことを、人としての誇りに感じているようでした。
そういう人権感覚が、ツメの先まで行き渡っているような学校でしたし、その努力は、何倍にもなって返ってくるように感じていました。
昨日、ある通常学級に通うダウン症のお子さんの 「拡大教科書」 という物を見せていただきました。
以前から、お母さんにお話を伺っていましたから、自分なりのイメージはもっていましたが、それを実際に見て、そのお子さんが生き生きとその教科書を読んでいる様子を目の当たりにすると、私は予想だにしないインパクトを受けることとなりました。
とても恥ずかしい話ですが、以前にこのお子さんにプリントをしてもらったときに、「大きな数字を書く子だなあ」 という印象をもっていました。
その時、この子は、見えにくい小さい文字であったにもかかわらず、何一つその事に不平を言うこともなく、健気に一生懸命私の出したプリントに取り組んでくれていたわけです。
お母さんにお伺いすると、その拡大教科書は18ポイントだということで、ポイント数はご家族の希望=オーダーメイドで、当然、ポイント数が大きくなるにつれて、そのページ数も増えていくことになります。
教科書という物は、学びを主体とする子どもにとって、特別な物、なくてはならない物であることは言うまでもありません。
その子は、4年生になって、初めてその子にあった教科書と出会ったことになります。
私の前で、その子は本当にうれしそうに、生き生きと音読をしてくれました。
ある意味、これは衝撃でした。
国語の他に、社会科の教科書を見せていただきました。
国語の教科書は、活字でしたが、この社会科の教科書の文字は手書きで、資料などもていねいに貼り付けられた言わば手作り教科書そのものでした。文科省の検定教科書ではありましたが、あるボランティア団体の協力をもとに作成されたことが記されていました。
社会科となると、資料も重要で、その一つ一つが18Pとなると、そのページ数もかなりのものになります。
しかし、こういうことは本当に大切なことだと痛感しました。
子どもの指導にあたる者、すべてかくるべし、と私は深く心に刻みました。
大切なのは、拡大教科書そのものではなく、子どもの育ちをしっかりと見つめ育む姿勢、構え、理念、愛情、そして人ひとりの命に向き合うという誇りと使命感です。
この度、機会があって、私はこのお母さんから、この拡大教科書を手にするまでの一つの道程をうかがい知ることができました。
この子の育ちのために、母としてどれだけ心を砕いて組織に立ち向かい、様々なことに道を開いてきたかも伺っています。
また、それぞれ立場は違えども、我が子のためならばと、何もかも振り捨てて、前へ前へと進んでいこうとされている何人ものお母さん方を知っています。
どんなに苦しくとも、打ち抜くことにより開ける道もある。
また、そういうことから見えてくる真実もある。
そして、誰に何と言われようとも、どんな風に思われようとも、時として貫いていかねばならぬ地合いがあることも学びました。
みんなから、いい顔されて、手を汚さずに進むことなんて出来ないなと、覚悟を決めました。
前に進めば進むほど、受ける風も強くなってくるものです。
時には小さな声にも耳を傾けよう、わずかな変化にも目をこらそう、厳しいご指摘も甘んじて受けよう。
それでも、もう私は決して後には引かない。
私は、ずっとずっと、こういうご家族の応援団でいたいと思います。
拡大教科書を手にした感覚が、私の手にはまだ残っています。
また一つ、私は自分の向かう先が、しっかりと見えてきたような気持ちになりました。
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