薬物使用が効果的だった事例と使用せずに切り抜けた事例(ハイテンション傾向のお子さんの小学校における実践から)
2008-05-15
お子さんの行動面に、脳内の神経伝達物質(セロトニンなど)が重要な役割を果たしていることが、様々な研究や事例を通して明らかになりました。その神経伝達物質をコントロールするために、お薬が処方されることも、今では珍しくも何ともない時代になりました。
その薬物使用について、私が小学校の教員だったときに、印象に残っている事例が2つあります。
その一つめは、小学校2年生の男のお子さんの事例です。
その子は、自分が直接学級担任をしていたわけではありませんでしたが、かなりのハイテンションのお子さんでした。突発性の行動が多く、興奮すると自分で自分が押さえられなくなる状態が続き、担任の先生もそれを支える先生方も困り果てていました。
今からもう10年近く前のことだったと思いますが、結局、薬物を使用することとなりました。このときは「リタリン」だったと聞いていましたが、その効果は驚くべきものでした。
あれだけ大きな声や騒ぎが日常的だったのに、薬を使用し始めてからは、めっきり数は少なくなりました。(というより、ほとんどなくなりました)
しばらくしてその子の顔を見ると、表情自体にとんがったものが、まるでなくなっていました。(確かに少しぼーっとした印象もありましたが)
でも、結果として、行動が落ち着いたおかげで、勉強面でその子のもっている力が発揮できるようになり、次第に生活のサイクルがプラス方向に回転していき始めました。
すごいもんだな、とそのときに感心した記憶があります。
もう一つは、薬に頼らなかった事例です。
小学校5年生の男の子でした。この子には理科の勉強を教えに行っていたし、生徒指導主事をしていたので、今で言う特別支援教育コーディネーターのような活動も行っていました。
この子は明るくてかわいい子でしたが、まあおっちょこちょいも度を超していました。何度骨折したかわかりませんが、いつもどこかで頭をぶつけているようなお子さんでした。
衝動性も強く、まさに注意欠陥・多動性と顔に書いているようなお子さんでした。
私の授業ではさほど困り感はありませんでしたが、担任の先生は相当ダメージを受けていました。
ある日、見るに見かねて、専門機関への相談をお母さんに持ちかけてみました。私と担任とお母さんの3人で話合いをもちました。
しかし、お母さんは断固としてそのことを拒否しました。私自身は、それも仕方ないなと思っていましたが、その担任には複雑な思いが残りましたし、ご苦労をいただいたと思っています。
それから何年か経ち、私の友人の先生が不幸にもお亡くなりになるという出来事が起こりました。そのとき、お葬式に参列していると、中学生(もしかしたら高校生?)の彼の姿がありました。
お母さんは私の姿を見つけると近くに寄ってきてくださいました。そして、
「この子は、学校の先生になりたい、という希望をもつようになりました・・・」
と教えてくださいました。何だか胸にこみあげてくるものがありました。ふと横を見ると、面影はそのままだけど、身長も顔つきも、見違えるようにたくましく成長した彼の姿がありました。
先ほど紹介したリタリンは、メチルフェニデートといい、多動性・衝動性には約7〜8割の有効性があると言われていますが、反面、食欲低下やチックなどの副作用、あるいは依存性などの問題もあります。
また、多動性や衝動性の改善には、行動療法(トークンエコノミー法など)やペアレントトレーニングなどいろいろなアプローチがあることも知っておくべきです。
昨日私は、あるお母さんからお薬の情報をいただきました。早速、親しくしていただいているO大学の小児神経学のDr.にお電話をし、いろいろなことをご指導いただきました。お母さんにもお電話でいろいろなことをお尋ねし、いっしょに考えながら、今まさに、そのためのアプローチを、あれやこれやと思案している最中です。
薬の使用は、何のために、ということが大切なのではないかと思います。薬を飲めば、それでほとんどすべてのことが改善される場合はそれでよいのですが、そうでない場合は、、薬の効果がある間に、いろいろなことを整えておきたいと思うのです。
うまくいくかどうかわかりませんよ。でも、何かの工夫で、薬にたよらなくてもすむ方法はないのでしょうか?
そして、その営みや工夫の中で、大切なことを学んだり吸収されたりすることも大いにあるのではないでしょうか?
先ほどの5年生の男の子のお母さん、ある日私が自転車でその学区を通っていると、自宅の庭先で草花の手入れをされていました。
とてもいい天気の日でしたし、立ち止まって世間話をしてみると、何だかとってもいいお母さんの思えてきました。(ということは、相手のお母さんも同じような思いをもたれたのかも知れませんね)
と、同時に、このお母さんは、この子と真剣に向き合っているな、と肌で感じた瞬間でした。薬を拒否したお母さんには、きっと何かの強い思いがあったのでしょう。
まぎれもなくそのことが、数年後のたくましいその子の表情の、大きな支えとなったことと思います。何より大切なのは子どもときちんと向き合うこと。そして、その子の成長のために、工夫をしていくことだと思います。
子育てとは、その過程そのもです。そして、場合によってはそのことが「幸せ」そのものなの知れませんね。
ご苦労をされたお母さんの「幸せ」と、私は何度も出会ってきました。
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